説明
酒屋に行っても何を買えばいいかわからない──そんなリスナーのために、日本酒のラベルに書かれた情報の読み方を完全解説。純米・吟醸・大吟醸など、よく見る言葉の意味がこの回でスッキリわかる。
登場人物
田中 誠
38歳のIT企業勤務男性。日本酒歴10年以上の自称「沼の住人」。知識と経験は豊富だが、熱くなるとマニアックな話に走ってしまう。口調は親しみやすく、ときどきテンションが上がりすぎる。
佐々木 あかり
28歳のフリーランスWebデザイナー。日本酒初心者で「日本酒=おじさんの飲み物」という先入観を持っていたが、誠に教わりながら少しずつ日本酒の魅力に気づいていく。素直でズバズバ質問するタイプ。
会話テキスト
- 田中 誠
こんにちは、日本酒のすすめへようこそ。
- 佐々木 あかり
佐々木あかりです。よろしくお願いします。
- 田中 誠
田中誠です。日本酒歴10年の私と、ビール派のあかりさんが日本酒の世界をゆるく掘り下げていく番組です。
- 佐々木 あかり
前回、前々回と聴いてくださっている方、本当にありがとうございます。今日で第3回ですね。
- 田中 誠
早いですね。今日もよろしくお願いします。
- 佐々木 あかり
よろしくお願いします。
- 田中 誠
あかりさん、この前また酒屋に行ったって言ってましたよね。
- 佐々木 あかり
行きました。仕事終わりにふらっと。なんか前回の話を聞いてから、酒屋の棚が気になってきちゃって。
- 田中 誠
おお、それは良い兆候。で、どうでした?
- 佐々木 あかり
棚の前で完全に固まりました。純米、吟醸、大吟醸、純米大吟醸、特別純米…ラベルの言葉が全部呪文みたいで、どれを手に取ればいいか全然わからなくて。
- 田中 誠
あの棚の圧力、すごいですよね。慣れてても知らない銘柄が並んでると私でも一瞬止まる。
- 佐々木 あかり
結局なんとなく「大吟醸」って書いてあるやつを買ったんですよ。なんか強そうな響きだったから。
- 田中 誠
強そうですよね。
- 佐々木 あかり
違いましたか、その選び方。
- 田中 誠
間違いではないんですけど、今日まさにそのラベルの話をしようと思ってたので、ちょうどよかった。あの言葉ひとつひとつ、実はちゃんと意味があって、読めると選び方がガラッと変わるんですよ。
- 佐々木 あかり
呪文から地図に変えたい、という気持ちで来ています。
- 田中 誠
その表現、まさにそれです。今日はラベルを地図として使えるようになる話をしましょう。
- 佐々木 あかり
お願いします。
- 田中 誠
まず、純米・吟醸・本醸造っていう言葉から入りましょうか。あかりさん、これって何の違いだと思ってましたか?
- 佐々木 あかり
正直、味のキャラクターの違いかなって。純米は純粋な感じ、吟醸はフルーティ、みたいなぼんやりしたイメージ。
- 田中 誠
実はあれ、味の感想じゃなくて「作りのルール」なんですよ。
- 佐々木 あかり
ルールなんですか?
- 田中 誠
法律で決まってる肩書きというか。原料に何を使って、米をどれだけ削って、という条件を満たした酒だけが名乗れる。これを「特定名称酒」と言います。
- 佐々木 あかり
じゃあ勝手に「純米です」って言えるわけじゃないんだ。
- 田中 誠
言えないですね。で、純米酒の一番大事なポイントは、原料が「米・米こうじ・水」だけ、ということ。醸造アルコールを加えていない、という区分けです。
- 佐々木 あかり
醸造アルコールって何ですか?
- 田中 誠
香りを引き立てたり、味を軽くしたりするために少量加えるアルコールです。悪いものじゃなくて、量の上限もある。純米はそれを使わない、という選択をしている酒です。
- 佐々木 あかり
それって裏のラベルで確認できるんですか?
- 田中 誠
できます。原材料名を見て「醸造アルコール」って書いてなければ純米系、書いてあれば本醸造か吟醸の純米じゃない側。
- 佐々木 あかり
それわかりやすい。デザインの仕事してるせいか、ラベルって結局情報の整理なんだなって急に思えてきた。成分表示とか規格の表記って、どの業界でも似たような構造がありますよね。
- 田中 誠
その感覚、めちゃくちゃ正しいです。ラベルって本当に情報設計なんですよ。
- 佐々木 あかり
で、吟醸と本醸造はどう違うんですか?
- 田中 誠
吟醸は「米をたくさん削ってる」というのが条件のひとつです。「精米歩合60%以下」って言って、玄米の外側を40%以上削った米を使う。
- 佐々木 あかり
削ると何がいいんですか?
- 田中 誠
外側には雑味になりやすい成分が多くて、削ることで香りがきれいに出やすくなる。あの華やかなフルーティな香りは、だいたいそこから来てます。
- 佐々木 あかり
じゃあ私のイメージはあながち外れてなかったんだ。
- 田中 誠
方向性は合ってます。ただ、「純米だから濃い・重い」とか「純米だから絶対うまい」みたいな思い込みは危ないです。
- 佐々木 あかり
えっ、純米ってなんか良さそうな響きだから、上位互換だと思ってた。
- 田中 誠
そこ、よく誤解されるんですよ。純米は「アルコール添加なし」という原料の区分で、味の軽い重いは銘柄や造りで全然違う。純米でもすっきりしたのはあるし、本醸造でも深みのあるやつはある。
- 佐々木 あかり
じゃあ純米かどうかだけで選ぶのは、ちょっと乱暴なんですね。
- 田中 誠
そう。たとえば同じ蔵の「純米吟醸・精米歩合60%」と「本醸造・精米歩合70%」を飲み比べると、純米吟醸は冷やして単体でも飲みやすい香り系、本醸造はスッキリして食事に合わせやすい、みたいな差が出たりする。
- 佐々木 あかり
それ、飲み比べてみたいです。同じ蔵で比べるの、面白そう。ワインでも同じ生産者のシリーズを飲み比べるのが一番違いがわかりやすいって聞いたことがあって、同じ発想ですね。
- 田中 誠
まさにそれです。値段も720mlで1,400円前後くらいから探せるので、試しやすい。
- 佐々木 あかり
酒屋で飲み比べセットって売ってたりしますか?
- 田中 誠
最近の専門店は300mlの小瓶を揃えてるところも多くて、2本買っても2,000円以内に収まることもありますよ。
- 佐々木 あかり
それいい。財布にも優しいし、失敗しても傷が浅いですね。
- 田中 誠
失敗を想定してるんだね。
- 佐々木 あかり
大事じゃないですか、リスク管理。デザインの仕事でも小さく試してから本番に行くのが基本なんで。
- 田中 誠
それも正しい選び方ですね。
- 佐々木 あかり
で、酒屋でまず何を見ればいいですか、実際に。
- 田中 誠
まず特定名称、純米とか吟醸とか本醸造って書いてある部分を見て、香り寄りか食中寄りか方向性をつかむ。次に精米歩合の数字を確認する。この2つだけで、だいぶ絞れます。
- 佐々木 あかり
それだけでいいんだ。思ったよりシンプル。
- 田中 誠
最初はそれだけで十分です。あとは裏ラベルの原材料名で醸造アルコールの有無を見る、この3点セットで迷いが減りますよ。
- 佐々木 あかり
覚えた。特定名称、精米歩合、原材料名。
- 田中 誠
完璧ですね。
- 佐々木 あかり
ところで精米歩合の話、もう少し掘り下げていいですか。さっき「60%以下」「50%以下」って出てきたんですけど、数字が小さいほど高級ってことですか?
- 田中 誠
これ、みんな一度は思うんですよ。私も最初そう思ってたんです。
- 佐々木 あかり
違うんですか?
- 田中 誠
数字が小さいほど米をたくさん削ってる、つまりコストはかかってる。でも「おいしい」かどうかは別の話です。
- 佐々木 あかり
えっ、コストかかってるのにおいしくないこともある?
- 田中 誠
おいしくないというより、「場面に合わない」ことがある。私の知り合いが大吟醸を奮発して買ってきて、焼き魚と合わせたら香りが喧嘩した、って言ってた。
- 佐々木 あかり
あー、なんとなくわかる。香りが強すぎて料理の邪魔をするやつ。コーヒーとか紅茶でも、フレーバーが強いやつってケーキより単体で飲むほうが映えるじゃないですか、あれと似てる気がする。
- 田中 誠
そのたとえ、わかりやすい。大吟醸は精米歩合50%以下で、吟醸よりさらに削った米を使う。華やかな香りが得意なんですけど、食事と合わせるより単体でゆっくり飲む場面向きのことが多い。
- 佐々木 あかり
私が買ったやつ、まさにそれだった気がする。1杯飲んで、なんか次が進まなかったんですよね。
- 田中 誠
香りが強いと満足感が早く来るんですよね。ご飯と一緒に飲むなら、精米歩合70%の本醸造のほうが合うこともある。
- 佐々木 あかり
じゃあ数字が大きいほうが食事向き、という傾向はある?
- 田中 誠
傾向としてはそう言えることが多いです。ただあくまで傾向で、銘柄によって全然違うので、入口の目安として使ってほしい。
- 佐々木 あかり
入口の目安、わかりました。
- 田中 誠
精米歩合は「設計の違い」として読む、というのが正しい見方です。低いから上、高いから下じゃなくて、それぞれ狙いが違う。
- 佐々木 あかり
そういえば「特別純米」って書いてあるやつを前に見たんですよ。あの「特別」って何が特別なんですか?なんかすごそうで気になってた。
- 田中 誠
あれ、実はちょっとクセのある表示で。
- 佐々木 あかり
クセって何ですか?
- 田中 誠
「特別純米」や「特別本醸造」の「特別」は、精米歩合が60%以下、もしくは「特別な製造方法」のどちらかを満たせば名乗れる。
- 佐々木 あかり
「特別な製造方法」って、それ範囲広くないですか。
- 田中 誠
広いんですよ。だからラベルの近くに、何が特別なのかを説明する表示が必要なんです。「山田錦を使用」とか「長期低温発酵」とか。
- 佐々木 あかり
なるほど、だから「特別」って書いてあったらその説明を探せばいいんだ。
- 田中 誠
そう。「特別」って書いてあるから上位互換、じゃなくて、何が特別なのかを確認してから買う、というのが正しい読み方です。
- 佐々木 あかり
それ知らなかったら、なんかすごそうだから買っちゃいそう。ラベルのコピーライティングに負けてたわけだ。デザイナーとして反省。
- 田中 誠
情報設計の話に戻ってきた。
- 佐々木 あかり
でもほんとそう。ラベルって買い手の心理を動かすように作られてるんですよね。「特別」「大吟醸」「プレミアム」みたいな言葉って、意味を知らないと響きだけで判断しちゃう。
- 田中 誠
だから読み方を知ってると、ちゃんと自分の基準で選べるようになる。特別純米を見つけたら、精米歩合の表記か、特別の説明がラベルのどこかにあるはずなので、それを探して根拠を確認してから買う、という手順がおすすめです。
- 佐々木 あかり
探す楽しさも出てきますね、そう思うと。
- 田中 誠
そうなんですよ。ラベルを読む、というより、ラベルと対話する感じになってくる。
- 佐々木 あかり
対話、いい表現。
- 田中 誠
もう一個大事な話があって。
- 佐々木 あかり
まだありますか。
- 田中 誠
「生酒」の話です。
- 佐々木 あかり
あ、生酒。なんか新鮮そうで良さそうっていう、ふわっとした印象しかなかった。生ビールが好きだから、生って聞くとなんかいいものな気がしちゃう。
- 田中 誠
そのふわっとした印象が、ちょっと危ないんですよ。
- 佐々木 あかり
どう危ないんですか?
- 田中 誠
生酒って、火入れをしていない酒なんです。日本酒には「火入れ」という、加熱して味の変化を落ち着かせる工程があって、生酒はそれをやっていない。
- 佐々木 あかり
火入れをしないと何が変わるんですか?
- 田中 誠
香味が変化しやすくなる。フレッシュで生き生きした味わいが魅力なんですけど、その分デリケートで、保存環境に影響を受けやすい。
- 佐々木 あかり
じゃあ常温で置いといたら?
- 田中 誠
数日から数週間で香りや味が変わることがあります。冷蔵が基本で、開けたら特に変化が早い。
- 佐々木 あかり
えっ、それ知らなかったら普通に常温で置きっぱなしにしちゃいそう。生鮮食品と同じ感覚で扱わないといけないんだ。
- 田中 誠
そうなんです。「生酒って書いてあるから新鮮で良い」くらいの認識で買って、常温の棚に飾っておく人、実際に多いんですよ。
- 佐々木 あかり
飾っておく。いそう、確かに。ラベルがきれいなやつって、つい飾りたくなるんですよね。私もそれやりかけたことある。
- 田中 誠
ラベルがきれいなの、多いんですよ。でも生酒を買ったら帰ったらすぐ冷蔵庫に入れる。開けたら1週間以内を目安に飲み切る計画を立てる、というのを意識してほしい。
- 佐々木 あかり
1週間か。一人暮らしだと720mlを1週間は結構ハードルあるかも。
- 田中 誠
そういう場合は300mlの小容量を選ぶのがおすすめです。飲み切りやすいし、失敗しても傷が浅い。
- 佐々木 あかり
またリスク管理の話に戻ってきた。
- 田中 誠
300mlは本当に初心者に優しいサイズです。
- 佐々木 あかり
ちなみに「生貯蔵酒」とか「生詰め」っていうのも見たことあるんですけど、これも生酒と同じ扱いでいいですか?
- 田中 誠
少し違って、これは火入れのタイミングの違いです。生酒は火入れゼロ。生貯蔵酒は貯蔵する前は火入れなしで、出荷前に1回だけ火入れする。生詰めは逆で、貯蔵前に1回火入れして、出荷前はしない。
- 佐々木 あかり
ちょっと待って、整理が追いつかない。
- 田中 誠
簡単に言うと、生酒が一番デリケートで、生貯蔵・生詰めはその中間、くらいの感覚でいいです。
- 佐々木 あかり
じゃあ「生」って書いてあるものは全部、冷蔵で扱う意識を持つ、ということ?
- 田中 誠
それで正解です。特に生酒は徹底して。生貯蔵・生詰めも冷蔵のほうが安心。
- 佐々木 あかり
わかったよ、冷蔵スイッチ入れる。
- 田中 誠
あと飲み比べの話でいうと、同じ蔵の純米吟醸と本醸造を300mlか720mlで1本ずつ買って、同じ温度で飲み比べてメモを取る、というのもすごくおすすめです。
- 佐々木 あかり
メモを取る。そこまでやるんですか。
- 田中 誠
取らなくてもいいんですけど、「なんか好き」「なんか違う」を言語化しておくと、次の酒屋で選ぶときに役立つ。
- 佐々木 あかり
ああ、それ、デザインのフィードバックと似てる。「なんか違う」を言語化できると、次に活かせる。クライアントに「なんか違う」だけ言われても困るのと同じで、自分でも言語化する習慣って大事ですよね。
- 田中 誠
まさにそれです。どちらも「なぜそうなっているか」を読む力が大事だから。
- 佐々木 あかり
日本酒とデザイン、意外と繋がる。
- 田中 誠
繋がりますよ。今日の話、整理すると、特定名称で方向性をつかんで、精米歩合や原材料名でブレを減らして、「生」などの表示で扱い方まで決められる。
- 佐々木 あかり
3点セットですね。特定名称、精米歩合、原材料名。
- 田中 誠
次に酒屋に行ったとき、その3点だけ見て1本選んでみてください。迷い方が変わると思います。
- 佐々木 あかり
なんかパズルを解く感覚に近いかも。「楽しい迷い」になりそう。
- 田中 誠
その感覚が出てきたら、もう日本酒の沼の入口に立ってますよ。
- 佐々木 あかり
怖い言い方しないでください。
- 田中 誠
良い意味で。
- 佐々木 あかり
わかってますよ。今日はラベルへの見方がガラッと変わった気がします。呪文だったのが、ちょっと地図に見えてきた。
- 田中 誠
それが今日一番言いたかったことです。
- 佐々木 あかり
リスナーの皆さん、今日の話で「ここ気になった」とか「こういうラベルを見たんだけど」とか、ぜひコメントやお便りで教えてください。実際のラベルの写真を送ってくれたら田中さんが解説してくれると思うので。
- 田中 誠
喜んで解説します。概要欄にお便りフォームのリンクを貼っていますので、あかりさんへの質問でも、私への質問でも、どちらでも。
- 佐々木 あかり
番組のフォローや高評価もしていただけると、すごく励みになります。
- 田中 誠
次回もまたゆるく日本酒の話をしていきますので、お付き合いください。
- 佐々木 あかり
また次回お会いしましょう。
- 田中 誠
ありがとうございました。
- 佐々木 あかり
バイバイ、またね。
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